消費税法:令和2年改正「高額特定資産」について棚卸の調整の適用を受けた場合の改正論点
※この記事は、令和2年8月18日現在の法令に基づいて掲載しています。
平成28年4月1日以降、課税事業者が本則課税を適用する課税期間に高額特定資産を取得した場合には、原則としてその課税期間から3年間は課税事業者・本則課税が強制適用されます。これは、高額特定資産について課税売上割合が著しく変動した場合の消費税額の調整規定を適用させることを目的とした規則ですね。
いわゆる自販機作戦という節税スキームを潰すためのもので、この規定によって自販機を使った節税スキームは使えなくなりました。
そして、令和2年4月1日からは高額特定資産について棚卸資産の調整の適用を受けた場合(免→課)にも、そこから3年間は課税事業者・本則課税が適用されるようになりました。
棚卸資産の調整
棚卸資産の調整とは、免税事業者が課税事業者になった場合に、その課税事業者になった日に有している棚卸資産のうち、免税事業者であった期間中に仕入れた棚卸資産については課税仕入れとみなす規定です。
消費税法の仕入税額控除の時期は、あくまで「引き渡しを受けた」ときです。よって、免税事業者に該当しているときに引き渡しを受けた棚卸資産について本来は仕入税額控除を受けることができません。会計上においては売上・売上原価を対応させて利益計算を行うのですが、消費税法上においてそんな考え方はないんですね。
よって、上図でいえば売上の550円(税50円)だけが計上され、納付税額50円!となるわけです。
ただ、さすがにそれは課税事業者になったときに負担が大きすぎるということで、売上と売上原価を対応させるため、110円(税10円)を「仕入とみなす」ことで、適正な消費税額の納税額である40円が計算できるという規定ですね。
高額特定資産も「仕入れ」とみなす
さて、今回の改正は簡単な話で、高額特定資産について仕入を行ったときに課税事業者と本則課税を強制適用するというのなら、棚卸資産の調整規定で「仕入とみなされた」ときも同じように課税事業者と本則課税を強制適用しよう!ということです。考えてみれば至極当然な話ですよね。
上記の図からみると、令和2年4月1日から課税事業者に該当し、高額特定資産を仕入れたものとみなされるので、令和3年4月1日~令和4年3月31日・令和4年4月1日~令和5年3月31日の各課税期間については、課税事業者・本則課税が強制適用されます。
調整対象自己建設高額資産って?
高額特定資産について棚卸の調整の適用を受けた場合の規定の対象となるのは棚卸資産もしくは課税貨物、又は調整対象自己建設高額資産とあります。
この「調整対象自己建設高額資産」というのが曲者でして、分かりにくい。何がわかりにくいかっていうと、「自己建設高額特定資産」との違いが分かりにくい。
どららも建設に要した原材料費及び経費の累計額が1,000万円以上となったものを言っているんですが、定義に微妙な違いがあります。
結論から書くと、
自己建設高額特定資産=免税事業者及び簡易課税の適用を受ける課税期間中の材料費及び経費は含まない
調整対象自己建設高額資産=免税事業者及び簡易課税の適用を受ける課税期間中の材料費及び経費も含める
という風に理解しています。
そういう定義でないと高額特定資産について棚卸資産の調整の適用を受けた場合の適用が受けられないからです。
上記図を例にみると、免税事業者に該当する材料費が建設費用に含まれない場合、建設費用は0円となり、調整対象自己建設高額資産に該当しないということになってしまいます。従来の「自己建設高額特定資産」の定義ではこの規定が適用できないため、新たに「調整対象自己建設高額資産」という定義を作ったんだと思います。
以下、条文を参照してみましょう。
調整対象自己建設高額資産の定義です。
他の者との契約に基づき、若しくは当該事業者の棚卸資産として自ら建設等をした棚卸資産(当該事業者が相続、合併又は分割により被相続人、被合併法人又は分割法人の事業を承継した場合において、当該被相続人、被合併法人又は分割法人が自ら建設等をしたものを含み、当該棚卸資産の建設等に要した政令で定める費用の額が政令で定める金額以上となつたものに限る。以下この項において「調整対象自己建設高額資産」という)
消費税法第12条の4第2項より引用
法第十二条の四第二項に規定する政令で定める費用の額は、同項に規定する調整対象自己建設高額資産の建設等に要した課税仕入れに係る支払対価の額の百十分の百に相当する金額、特定課税仕入れに係る支払対価の額及び保税地域から引き取られる課税貨物の課税標準である金額(当該調整対象自己建設高額資産の建設等のために要した原材料費及び経費に係るものに限る。)の累計額とし、同項に規定する政令で定める金額は、千万円とする。
消費税法施行令第25条の5第3項より引用
対して、自己建設高額特定資産について金額の定義を見てみます。
自己建設資産(対象資産のうち、他の者との契約に基づき、又は事業者の棚卸資産若しくは調整対象固定資産として自ら建設等(法第十二条の四第一項に規定する建設等をいう。以下この条において同じ。)をしたものをいう。)
当該自己建設資産の建設等に要した課税仕入れに係る支払対価の額の百十分の百に相当する金額、特定課税仕入れに係る支払対価の額及び保税地域から引き取られる課税貨物の課税標準である金額(当該自己建設資産の建設等のために要した原材料費及び経費に係るものに限り、当該建設等を行つた事業者が法第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除されることとなる課税期間又は法第三十七条第一項の規定の適用を受ける課税期間中に国内において行つた課税仕入れ及び保税地域から引き取つた課税貨物に係るものを除く。次項において「仕入れ等に係る支払対価の額」という。)の合計額
消費税法施行令第25条の5第1項第2号より引用
自己建設高額特定資産の定義においては、納税義務が免除される課税期間又は法第37条(=簡易課税)の適用を受ける課税期間中に支払った部分を除く旨が規定されていますね。
このあたりの条文は難解で読みにくいので、専門学校のテキスト教材を参考にしたほうがわかりやすいと思います。